とある一日

 安倍邸に、それなりの事情があって預けられることになった姫がいた。
 歳は、晴明の孫である昌浩よりも幾分か上だろうか。
 とにかくそういうことだと、偶然側にいた私が呼ばれたわけだが。

「勾陣」
「何だ」

 晴明は相変わらず、何を考えているのかわからない。
 最近は昌浩がらみのことが多く、こういうのは久しぶりかもしれない。
 彰子姫ほどではないにしろ、この姫もそれなりに見鬼の才を持っているから私の役目はせいぜい、彼女を見ていること
 だろう。

姫という。…姫も見鬼の才をお持ちでな。だが、わしはまだ仕事が残っている。
 お前が見ていてくれると助かるんじゃが」

 …まったく。私がこのところ退屈なのも見破られているな。
 最近は昌浩も遠出をするようになり、それに連なってほかの神将たちも同行するようになった。
 よって、見ているだけで楽しめる太陰や玄武はいない。

「わかっているだろう、晴明」
「さぁて、なんのことじゃ?」

 こういうところは昔から変わっていない。
 しかたなく、私は頷いて返事を返した。

「そうかそうか。姫、今日の間、ここにいる勾陣が姫と共におりますゆえ、安心なさいませ」
「こう、ちん…?」

 とりあえず、姫の近くまで寄ることにした。

「お初にお目にかかる。十二神将、勾陣だ」
「あなたが、私と一緒にいてくださるの?」
「そうだ」
「そう、ですか。…よろしくお願いします」

 貴族の姫はほとんど話もせずに終わるのがいつもだが、この姫は違うらしい。
 まあ、見鬼ということもあって、少しは免疫がついているのかもしれないが。

「こちらこそ」

 そして、私はと一日を過ごすことになった――。

「姫は、いつも何をしているんだ?」
「いつも、ですか」
「ああ」

 なんとなく気になって、問いかける。
 だが見鬼というものがあるかぎり、彼女はどこかで忌み嫌われているかもしれない。

「…お父様が、私が外に出ては行けないと。ずっと邸(やしき)にいます」
「退屈ではないか?」

 やはり、どこの家も父親が――というのは変わりないらしい。
 は少しして、また口を開いた。

「退屈ではありません。だって、私にはお友達がたくさんいるもの。
 この間だって、お父様には内緒だけど、妖怪のお友達ができて」

 ――は強い。
 普通の娘なら目に見えないものが見える時点で、すぐさま騒ぎ出すか怯えるかのどちらかだが、彼女は昌浩とや彰子姫と
 同じように妖怪に接している。
 だが、彼女は今日かぎりで、それさえできなくなってしまう。
 の父親が晴明に、見鬼の才を封じるよう頼んでいたのだから。

「……お友達が見えなくなるなんて…そんなに辛いこと、ないです」
「雑鬼たちも、そのうちわかるだろう」

 つい、一時凌ぎとわかっているのに、私はそう答えていた。

「勾陣。その姫はどうした」

 知らぬ間に、物の怪が姿を現していた。
 昌浩の使いのついでに来たのだろうか。

「姫、害を加えないから安心しろ。…晴明が預かっている姫だ」
「晴明が…そうか。邪魔したな」

 それだけで物の怪はすべてわかったようで、すぐに来た道を辿り、昌浩のもとへと戻って行った。

「今のは…?」
「私と同じ神将だ。まあ、好き好んで物の怪になっているわけではないが」

 の聞きたいことがなんとなく掴めたから、そう答えた。
 今もここにいてこの会話を聞いていたら、真っ先に訂正を入れるだろう。
 「物の怪ではない」――と。

「勾陣、外に出たいわ」
「庭に出るか?」
「ええ」

 この邸の庭は、けっこうな規模になっている。
 散歩してくるだけでも十分な気分転換になるだろうと思い、私は姫にそう言った。

「広いのねー。うちとは大違いだわ」
「姫の代で、これ以上の庭をつくるがいいさ」
「できるかしら」

 散歩しながら、そんな会話をはさんだ。
 そろそろ日が傾いてきている。姫が見鬼の才を封じられるまで、あと僅かという証拠。

「姫、そろそろ中に」
「待って。もう少しだけ…」

 どうやら、彼女なりにけじめをつけたいらしい。
 持ってきていた紙にさらさらと筆を落とした。
 遠くから、晴明の呼ぶ声がする。
 ――準備ができたのだろう。
 本当は大袈裟にやることではないのに、父親が安心できないからと、わざわざ事を大袈裟に見せる。

「…できたか?」

 頃合いを見計らって声をかけた。
 は、頷くことで私に返す。

「…この方が、姫にとって安全なものだとわかっている。そんな辛そうな顔をするな」

 は、自然と顔を歪めていた。

「勾陣!晴明が呼んでいたわよ?」

 いつの間にか、太陰が来ていた。
 私は仕方なしに、姫を晴明の元へ連れていくことにする。
 そしてなぜか、そこに居続ける気も起きなかった。

「……勾陣?どうしたの?そんなところで…」

 終わったのか、が姿を見せた。
 さっきと変わらない。が、見鬼の才は失われている。

「ようやく帰れるな」
「……」

 は、どうも強くありたいらしい。
 俯いてはいるが、涙は流していない。

、帰るぞ」
「あっ、えっと…さよなら、勾陣っ」

 なかば父親に引かれるように、は帰って行った。
 もう二度と、会うこともないだろう。
 そう思って、私は踵を返した。

「帰ったのか」
「…ああ」

 側にいた物の怪に引き止められ、私はしばらく立ったまま、空を見上げた。
 今日の私は、本当にどうかしてると思いながら――。

E N D


アトガキ。
この話は、けっこう前に私が別サイトの副管理人にあげた物だったりします。
時代モノは難しい…!!(笑
今回は、「少年陰陽師」から十二神将の勾陣さんを出してみましたw
そして初の夢小説だったりっっ
もっと精進せねば…!!