ずっと前、「シアワセってどこにあるの?」と子供じみた問いかけをしたことがあった。
 誰も本気で相手にはしてくれなかったけど、たった一人だけ、答えてくれた。

「シアワセなんて、どこにもない。あるのはカナシミ、かな」

 ――そう教えてくれたのは、お前だけだった。


0. 『彼』


「…暇だ」
「しょうがないよ。こんな天気なんだから」

 カレンダーも、そろそろ梅雨時にさしかかろうとしている。
 いつも当たらない天気予報も、この時期は絶対に「大雨」といえば当たる。
 そんな中、家の中で暇を持て余している少年が一人。

「なぁ、ゲームしねー?」
「毎日そればっかりだと、さすがに飽きるね」

 だからといって、こんな大雨の日に外に出るなんてことは絶対にしない。
 少年――侑来(ユキ)はつけたばかりのテレビのチャンネルを一通り回してから、また消した。
 これをやるのも、もう何度目だろう。

「暇なんだけど」
「一人でゲームでもしてたら?」

 侑来の唯一の話し相手である奏(カナデ)も、お茶を飲みながら本を開いている。
 奏はふとカレンダーを見上げ、呟いた。

「そういえば、今日だよね」
「何が?」

 そういうと奏は少し苦笑してから、見てみなよ、とカレンダーを指差した。
 こんな時期にいったい何があるのだろうと思いながら見てみると、ほとんど何も予定の入っていない
 六月の後半にちょうど、ひとつだけ赤いチェックが入っている。
 侑来はそれだけで何の日かを思い出し、あ、そっか、と呟いた。

「…墓参り、行った方がいい?」
「傘差すの面倒だから、雨が上がってからね」

 こういうところは昔から変わっていない。
 自分の好きなときに好きなところに行き、好きに一日を過ごす。それが奏の主義。
 侑来は、暇さえ解消できればなんでもいいとでもいうように、毎日何かしらやっている。
 そして、そんな二人の意見が合ったら、お互い即実行するのみ。

「たまには、昔話でもしようか」
「いーね、それ」

 新しくお茶を淹れて、お菓子も用意して、二人は雨がやむまで久しぶりに「彼」のことを話した――。


シアワセのカケラ


「何やってんの?あれ」

 工事中、という看板を見て、侑来は奏に問いかけた。

「新しい人が入るからだって」

 奏と侑来は兄弟ではないが同じマンションに住んでいて、工事しているのはちょうど、そのマンションの一室。
 もともとそんなに広くもないこのマンションに人が入るのは、都会のど真ん中、という立地条件があるからだろう。
 侑来は奏の持っているスーパーの袋をひとつ持って、奏が鍵を開けるのを待つ。

「――はい、いいよ」

 鍵が開いたのを確認して奏が言うと、侑来は急いでドアノブを回してドアを開けた。
 そして荷物を台所に置いて、すぐにテレビに向かう。
 今日は奏の給料日なので、侑来もそれを狙って新作のゲームを頼んだのだ。
 お金にうるさく言わない奏は、特に自分にお金が入るといつも侑来の望んだ通りの使い道をする。

「今日のご飯、面倒だから外食でいいよね?」
「さんせー!」

 奏は、どちらかというと自分で料理を作ろうとしない。
 侑来は料理、というよりはお菓子づくりの方が得意だったりする。
 そのため、料理は毎日交代制。それでも、こうやって給料日の日は自然と外食と決まっている。

「奏、やろうぜ」
「いいけど、賭けはナシだよ?」

 侑来はさっそくゲームの電源を入れて、奏を誘う。
 侑来はギャンブルがすごく好きで、自分で稼いだバイト代も、友達との賭けやら奏との賭けやらに消えていく。
 奏との賭けの場合は必ず侑来が負けるので、あまり賭け、というほどでもないけれど。

「――マジかよっ!!」
「裏技はナシって、言わなかったよね?」

 奏は、いつも知らないうちにこうやって裏技を見つけている。
 侑来が見つけたくても見つけられないところが、そういうものが得意な奏にとっては好都合なわけで。
 反則まがいの裏技を出して勝ち、それを何度か繰り返した後、そろそろ行こうか、と侑来を促す。
 侑来は納得していない様子だったが、それでも夕食がなくなるのはぜひとも避けたいので、ゲームの電源を切った。

「乗ってて」

 奏は戸締りをしてから、侑来が乗っている自分の車へと向かう。
 そしてエンジンをかけ、安全運転のほどよいスピードでいつものファミレスへ。


「ご注文はお決まりでしょうか?」

 二人はそれぞれ好きなものを頼むと、しばらく休憩とばかりに侑来は目を覆った。

「そんなに疲れたの?」
「うぅ〜」

 まだ、奏に負けたのが悔しいらしい。
 侑来はゲーム疲れの目をなんとかしようと、ポケットから目薬を取り出した。

「まったく、そんなになるならやらなかったらよかったのに」
「…お前、どこでそんなに練習してんだよ」

 不貞腐れたように、侑来は奏に聞いた。

「ああ。あれはね」

 ちょうど帰り際に会社でやってきたんだよね、と奏は苦笑しながら言った。
 帰り際にゲームできる会社ってどんな会社だよ、とツッコミたくなったが、あいにくそれを言う気力もないので、
 大人しくしている。

「お待たせいたしましたー」

 頼んだ物が次々と運ばれ、二人の意識は食事に集中する。
 そして五分も経たないうちに食べ終わり、侑来はさらに食後のデザートが待ち構えている。
 奏はコーヒーを飲みながら、運ばれてきたパフェをおいしそうに食べている侑来の顔を見て、なんだか微笑ましくなった。

「奏、食べる?」

 スプーンを差し出され、奏はすでに残り少なくなっているパフェを一口掬った。
 甘い生クリームと、コーンフレークの味がほどよく口の中に広がっていく。

「ごちそうさま」

 スプーンを返すと、侑来は残りをあっという間に食べてしまった。
 こんなに急いで食べてお腹を壊さないといいけど、と奏は親のような気持ちになったが、侑来はまだまだ大丈夫!と
 余裕そうなので、多分平気だろうと思い直した。
 そして会計を済ませ、二人は外に出た。

「涼しいーっ」

 もうすぐ夏いえども、夜は少し冷え込む。
 奏は車の鍵を回して、ドライブがてら少し遠回りをして家に戻った。

「…あれ?」

 車を降りると、知らない人がドアの前で立っている。
 侑来は不思議に思いながら、とりあえず奏に言ってみることにした。

「奏、誰だろ」
「ん?…なんだろうね、変質者かな?」

 半ば冗談ともとれない奏の冗談に、侑来は乾いた笑いを返すしかない。
 でも、その人のいるドアを開けないと家には入れないので、侑来は奏について、その人に近寄った。

「あの、」

 ここに何か?と奏が言う前に、向こうから話しかけてきた。

「ここの人?」
「そうですけど…」

 怪しい人につかまったかな、と呑気に考えていると、突然その人は一枚の紙を見せてきた。

「これって、ここでいいんだよね?」

 近くの人にでも書いてもらったのだろうか、簡単な地図が書いてある。
 目的地には斜線がひいてあり、そこは――

「…ここ、ですね」
「ほんとにこんなとこ住めるの?」

 …確かに、見た目ではそう思われてもしょうがないだろう。
 こんなボロアパートに、誰が好き好んで住むというのか。
 だが、中はけっこう充実しているので、奏と侑来は文句言わずに住んでいる。

「もしかして、新しく来る人ですか?」

 とりあえず、初めて来る人で思い浮んだことを言ってみた。
 だったら大家に通せばいいだけの話しだし、違っても大家に通せば――(とにかく大家に任せるだけ)
 そして、奏の予想は見事に当たり、男は置いていた旅行用のバッグを持ちあげた。

「そうそう!で、よかったら大家さんに通してほしいんだけどー」

 俺、麻生叶(アソウ カナエ)っていいます!と挨拶され、奏と侑来も、それぞれ自己紹介をする。 

「佐倉奏です」
「俺は須藤侑来」

 奏も美人だけど、この人も別の意味で美人。
 これが、侑来が抱いた最初の感想だった――。




アトガキ。
さっそくですが、まずは申し訳ありませんっ…!!(滝汗
連載のはずの「Disillusion」なのですが、ちょっと更新する際に
ファイルをどっかにやってしまったらしく、現在急いで探しておりますっ
見つけたらまた更新分と合わせてアップするので、もうしばらく
お待ちいただけると…!!
ちなみにこの「シアワセのカケラ」ですが、微妙に変えてちょっとした
知り合いにプレゼントした物ですので、こちらの方が更新は早めかとw